著書 | ヒトはなぜ絵を描くのか-芸術認知科学への招待 |
著者 | 齋藤 亜矢 |
カテゴリー | 科学・テクノロジー |
出版社 | 岩波書店 |
発売日 | 2014/2/4 |
Amazonカスタマーレビュー | (102) |
- 古代芸術に興味がある人におすすめです。 理由は、クロマニョン人たちが高度な技術と美意識を持って洞窟に精巧な動物の絵を描いていたことがわかるからです。
- 歴史や文化の研究が好きな人におすすめです。 理由は、クロマニョン人たちがオーカーや炭を使った多様な画材や技法を駆使して色彩豊かな表現を行っていたことが紹介されているからです。
- 保存状態の良い古代遺跡に興味がある人におすすめです。 理由は、クロマニョン人の壁画が奇跡的に保存されており、ネアンデルタール人が描いた可能性のある絵も発見されていることが記述されているからです。
クロマニョン人たちの驚くべき芸術世界
- クロマニョン人たちは高度な技術と美意識を持ち、洞窟の奥深くで精巧な動物の絵を描いていた。
- 彼らはオーカーや炭を顔料にし、さまざまな画材や技法を駆使して色彩豊かな表現を行っていた。
- これらの壁画が奇跡的に保存され、ネアンデルタール人が描いた可能性のある絵も発見されている。
クロマニョン人たちの壁画について知ると、その時代のイメージが大きく変わります。彼らは単なる原始的な人々ではなく、高度な技術と美意識を持っていたことがわかります。洞窟の奥深くで描かれた動物の絵は、現代の視点から見ても驚くほど精巧で、色彩や陰影、遠近法を駆使していました。これらの絵は、当時の狩猟生活や自然との関わりを表現したものとして考えられていますが、その意味はまだ完全には解明されていません。
また、クロマニョン人たちはさまざまな画材や技法を使いこなし、多様な表現を行っていました。オーカーや炭を顔料にし、水や動植物の脂肪を媒介として使ったり、指やブラシ、スタンプ、スプレー技法などを駆使していました。これらの工夫は、絵を描く行為が単なる日常の延長ではなく、特別な意図や目的を持って行われたことを示唆しています。動物の絵が多い理由についても、狩猟の成功や多産を願う呪術的な意味合いがあったのかもしれませんが、それだけではない、複雑な社会や文化が背景にあった可能性も考えられます。
最後に、これらの壁画が長い間保存されてきたこと自体が奇跡的です。観光客の増加による損傷を防ぐため、今では多くの洞窟が非公開となっていますが、これほど長い間保存されてきたことが驚異的です。また、ネアンデルタール人が描いた可能性のある絵も発見されており、彼らの文化や能力についての理解が深まっています。クロマニョン人たちの絵画は、人類の芸術的な探求の始まりを物語る重要な証拠であり、私たちがどれだけ遠くまで来たかを実感させてくれます。
太古の洞窟、暗闇の中に息づく色彩、クロマニョンの手が描いた命の記憶、オーカーと炭の軌跡が語る、遥かな時の流れを越えて、動物たちの魂が今も静かに踊る
ヒトのイメージ力と言語の関係
- ヒトのイメージ力は狩猟や石器製作の過程で磨かれたもので、見えないものを推論する力が重要でした。
- 言語の獲得がイメージ力に大きく影響し、視覚情報をシンボルに置き換えることで、複雑な思考やコミュニケーションが可能になりました。
- チンパンジーは部分的にカテゴリー化能力を持つものの、ヒトのように全てをカテゴリー化せず、今あるものを重視しています。
ヒトが「ない」ものをイメージし、補う力は、狩猟や石器製作によって磨かれたという説があります。獲物の行方を追跡し、計画的に狩りを行うためには、見えない動物の動きを読む推論力が必要で、この過程でイメージ力が発達しました。同様に、石器製作でも完成形を頭に描きながら石を加工することで、イメージ力が鍛えられました。
さらに、このイメージ力には言語の役割も大きいとされています。岩の凹凸にバイソンの姿を見立てることは、その特徴を抽出して「バイソン」として認識する作業であり、言語的なシンボルの操作が関わっています。視覚情報をカテゴリー化し、シンボルに置き換えることで、複雑な思考やコミュニケーションが可能になり、文化や技術の発展に寄与したのです。
チンパンジーの絵画研究も興味深い結果を示しています。彼らは線画を見て「何か」と認識することができ、カテゴリー化の能力も持っていますが、ヒトのようにすべてをカテゴリー化することはありません。これは、彼らが「今」を重視し、今あるものをしっかりと見ているためであり、ヒトが過去や未来を考えながら想像力を働かせるのとは対照的です。
見えぬ獲物を追い、石を砕く手に宿る力、言葉が織りなすイメージの翼、今を生きるチンパンジーが見つめる瞬間、過去と未来を超えた絆の光
描くことの魅力
- 、ヒトが描く理由は、「ない」モノをイメージして補う認知能力に関連している。
- 、描くことがおもしろいと感じるのは、ヒトや類人猿の共通の特徴で、結果よりもプロセス自体に楽しさがある。
- 、絵を通じてイメージを共有することは、ヒトが社会的動物であることの証拠である。
ヒトが描く理由は、「ない」モノをイメージして補う認知能力に関連しています。この能力は、進化の過程で言語の獲得や道具の使用とともに発達しました。描くことが進化の中でどのように形成されたかを理解することは、ヒトの本質に迫る重要な問いです。
描くことが「おもしろい」と感じるのは、ヒトや類人猿の共通の特徴です。オランウータンのモリーやチンパンジーたちが描く行為そのものを楽しむ様子は、描くことが自己報酬的であることを示しています。このプロセスの楽しさは、結果以上に重要であることがわかります。
描くことは、ヒトがイメージを共有し、コミュニケーションする手段でもあります。アボリジニのロックアートが示すように、描くことで地域や文化を超えたイメージの共有が可能になります。絵を通じたイメージの共有は、ヒトが社会的動物であることの証です。
描くことの喜びは、心の奥底から湧き上がる不思議な力、目に見えないイメージを形に変え、手のひらから生まれる夢の軌跡。絵筆が描く瞬間、世界は無限の色と形で満たされ、私たちの内なる創造が花開く。
想像と創造の深い結びつき
- アートは視点を変える力があり、見慣れたものを新鮮に感じさせる効果がある。
- エッシャーやマグリットの作品は、現実とは異なる世界観を提示し、思考の枠組みを広げる。
- アートの創造プロセスと鑑賞プロセスは、どちらも新たな気づきや発見をもたらし、創造性を広げる。
アートが心を動かす理由の一つは、視点の変化をもたらすことです。普段見慣れた風景や物が、新鮮に感じられるようになる瞬間は、まさにアートの魔法です。畠山直哉さんの「Slow Glass」シリーズのように、作品を通して見る世界は、新たな発見と驚きに満ちています。
もう一つの重要なポイントは、アートが既存の概念を拡張する力です。エッシャーやマグリットの作品のように、現実とは異なる世界観を提示することで、私たちの思考の枠組みを広げることができます。アートは、ただ美しいものを描くだけでなく、私たちが持つ既成概念を挑戦し、再構築する手助けをしてくれるのです。
最後に、アートの創造プロセスと鑑賞プロセスの共通点についてです。アーティストが新たな作品を生み出す際の試行錯誤や偶然の発見は、鑑賞者が作品を見て新たな気づきを得る過程と似ているのです。ピカソの制作過程や子どもたちの自由な絵画活動からもわかるように、創造性は固定された枠を超えて広がるものです。
見慣れた景色が新鮮に変わる瞬間、アートは心の窓を開き、子どものように驚きと喜びを再び与える。水滴の中の無数の宇宙、異なる視点が広げる世界の美しさ、その魔法に身をゆだねて。
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